「技術を教える」のではなく「オペレーターを育てる」”人間を教育する”ということ【ビジュアルアーツ専門学校 大阪 工藤校長インタビュー】

”エンターテインメント”
それは人々を魅了し、時には身近な、時には非日常的な体験を生み出すものであり、この世に無くてはならない存在となっています。
エンターテインメントを生み出すのは紛れもなく”人”であり、今日もまたどこかで新たなエンターテインメントが誕生していることでしょう。

そんなエンターテインメントの世界を夢見る若者達を育て、優秀な人材として世に送り続けているのが【ビジュアルアーツ専門学校 大阪(学校法人Adachi学園)】。
ただ知識を教えるだけではなく、”人”として寄り添い、育み、”人間力”そのものを成長させてくれる、そんな場所として長年に渡り業界人を輩出しているビジュアルアーツ専門学校 大阪の工藤久利校長に、学校の歴史から教育理念、そしてこれからのエンタメを作る若き世代への想いをお聞きしました。


tooloom(以下:T):本日はお忙しい中ありがとうございます。学校の事について色々とお話をお聞かせ頂ければと思いますのでどうぞ宜しくお願い致します。

ビジュアルアーツ専門学校 工藤校長(以下:工藤):よろしくお願い致します。


■創立55年の歴史ある専門学校

T:まず、最初に学校の歴史からお伺い出来ればと思いますが、元々は1966年に【大阪写真専門学校】として設立されたとのことですが、当時は”写真”というものに特化された学校だったのでしょうか。

工藤:当時は”デザイン”というものに重きを置いておりまして、”デザイナーを育てる”という場所として始まりました。“描く”ということと、”写真というものを主とした学校”を作ろうということで【大阪写真専門学校】を立ち上げたというのが始まりになります。

大阪・北区に所在する本校。今年で創立55年を迎える歴史ある学校である。

T:デザイン(描く)に特化した学校としては姉妹校として【大阪デザイナー学院】が1962年に誕生されていますね。

工藤:そうですね。そちらは”デザインをする”ということを学ぶ学校として、本校は”写真で表現する”ということを学ぶ学校として位置付けしておりました。

T:なるほど。その後、1994年に【ビジュアルアーツ専門学校】と校名を改称されましたが、どういった経緯があったのでしょうか。

工藤:写真から始まって、そのあと動画の学科が学内に設立されまして。次に”放送業界”や”音楽業界”にも対応すべく音響芸術学科という学科が立ち上がりました。学科が増えて大きくなるにつれて”写真専門学校”という名称では全てが認知されないということになってきました。音楽系の中でもミュージシャンや声優といった学科も出来たりしましたので、”アートを作っていく”ということと”ビジュアル系の映像を打ち出す”ということから【ビジュアルアーツ専門学校】という名前に改称しました。


■いろんな人とコミュニケーションをとれる総合校ならではの魅力

T:入学してくる多くの子たちは18歳前後という多感な時期でもあると思うのですが、そういった子たちを育成していく上でどういった教育方針を掲げていらっしゃるのでしょうか。

工藤:写真の世界というのはどちらかというと”個人作業”なんです。”個人が作りたいものを御自身で表現する”ということが主です。そこから徐々に色んな学科が増えてきて、例えば”映画を作る”だとか”ドラマを作る”とか、”コンサートをする”とかになってくると”個人の作品”ではなくなってきます。”チームの中で色んなセクションの人たちと知恵を出し合って一つのものを表現していく”ということと、”個人の表現”ということと2つに分かれていきました。

T:確かに、双方の想いが入り混じることになりますね。

工藤:今の我々の教育方針としましては、自分の専門分野以外のジャンルもいくつか勉強ができて、いろんな方とコミュニケーションを取りながら何かをつくっていく事ができる人材として教育を行うことです。社会の中で仕事をしていく上ではいろんな方のニーズに応えられることも重要になってきますので、多面的なニーズに対応できるように授業の中に取り入れています。

T:ただ、技術だけを教えるのではなく、社会人としてこの先歩んでいく為に必要な教育もされているということですね。

工藤:機材の使い方の事でいうと非常にわかりやすいのですが、”技術を教える学校”ではなくて、”オペレーターを育てる学校”でありたい。人間という価値をいかにプラス出来るかということが大事だという、あくまでも人間性を尊重したいという考え方を持っています。

T:ありがとうございます。年々学科だったり生徒数だったりと増えていっている中で、今の学校の魅力というのはどういったところがありますか。

工藤:学校にはいろんな方々がいらっしゃるので、学生達にとってもいろんな刺激を感じてもらえることです。本校もいろんな学科がありいろんな方々がいらっしゃるので、学校の中でコラボレーションをしたりだとか、自分がやっていることと違うことをしている人達と仕事をすることによって、その人の苦しみや喜びをわかち合いながら出来るということが魅力であると思っています。

T:在学中に色んな体験をすることが出来るんですね。

工藤:総合校の強みとして“学校の中で全てが完結できる”こと、“音楽だけ”とか“映像だけ”ではなく、一つの分野に縛られない環境であるということが一番の魅力でもあると感じています。

テレビ局の撮影スタジオのような教室もあった
撮影機材も豊富に揃う


■在学中から企業と関わる経験ができる

T:弊社(TSP西日本)も貴校の授業に参加させて頂いたり、”業界EXPO”(http://www.senmongakkou.info/expo/)にも参加させて頂いておりますが、在学中に学生が外部の様々な企業と関わりを持つことが出来る取組を多数されてますよね。

工藤:”職業実践専門課程”という制度がありまして、これは日々進化していく世の中に対して、教育を行う先生自身が外の情報を明確に知っているか、学校の中だけに籠って外の世界から取り残されていないかを問われる制度です。本校は職業実践専門課程に認定されており、いろんな外部の企業との連携を行うことによって、新しいことを取り入れていくという事を行っています。勉強会を開いて頂くこともありますし、学生と一緒に企業さんの実際の現場にお手伝いという形で参加し、目の前にお客様がいるという状況を体験させてもらうといったようなこともしております。

T:素晴らしい取り組みですね。でも現在はコロナの影響でそういった機会も減っているのではないですか。

工藤:コンサート業界等に関しては確かに減少はしています。でも、テレビ業界等では動きがあります。実際にこの春から始まるテレビドラマの監督を卒業生が担当しているといった事もありその現場に参加させて頂いたり、そのドラマ自体を”本”にするといった企画がありまして、取材から撮影までを本校で担当させて頂き、出演者の方々に取材を行ったり等もさせて頂きました。

T:それはとても貴重な体験となりますね。

工藤:実際にお客様にアプローチ出来るものに自分たちの名前が入っているという貴重な体験をさせて頂きました。勿論、学生全てがという訳ではないのですが、やる気のある子や才能のある子をそういった体験にマッチングさせるというような取り組みも行っています。

T:学生達にとっても、非常に良い経験に繋がることだと思います。ちなみに、これまでに卒業された方々で一線で活躍されている方は多数いらっしゃると思いますが、主にどういった方がいらっしゃるのでしょうか?

工藤:そうですね・・・写真系では「レスリー・キー」さんや「上田義彦」さんとかいらっしゃいますし、映像系では「河瀨直美」さん。裏方として活躍されている方はなかなか御自身の作品というのが無いので表に名前が出ることは少ないのですが、活躍されている方も多数いらっしゃいます。


■オンライン授業のメリットとは

T:コロナの影響によって学校としても色々な対応が求められた1年だったと思いますが、その中で学校として取り組まれていたようなことはありますか。

工藤:まず、緊急事態宣言が出たことにより、学校を開くことが出来なくなりました。休校ですね。そしてGW明けあたりからオンラインでの授業をスタートさせました。はじめは”対面で行っているような授業の映像を用意して、配信する”というような手法で行っていました。ただ、そこには限界があり、”対面の授業には対面の良さ”があり、そこはオンラインを通してもなかなか伝わりませんでした。でも、”オンライン用に適した教材を作る”ことで離れた姉妹校同士でも教材を共有できます。今までは限られた場所でしか出来なかったことが、全国でも出来るというメリットがありますので、オンラインでの授業というものはこの先コロナが終息したとしても継続して実施していくつもりです。

T:エンタメの世界もまさに同じで、今後たとえコロナが終息したとしても、リアルとオンラインであったりバーチャルなどとの共存という部分が更に進んでいくものだと感じています。

工藤:そうですね。最近のテレビでも見かけますが、映っている映像が本物かどうかわからないような表現をしたりしていますし、テーマパークなどでは映像を見ている時に水が飛び出してきたり匂いがしたりだとか、いろんなところで感覚的な演出というのも増えてきています。コンテンツが現実とどうコラボしていくのかということがこの先重要であると思いますね。さすがに2年間の学校生活の中でこれらを全て学び得るということは限界があると思いますが、学校でしっかりと基礎を学び、社会に出ても引き続き学び続けてもらえるよう教育していくことが重要だと感じています。


■人間性を育てるということ

T:今のお話と少しリンクはするのですが、エンタメ業界に人材を送り出す上で学校側として意識されていることなどはありますか。

工藤:先ほどもお話しましたが、”技術を教える”のではなく”オペレーターを育てる”という、あくまでも”人間”という教育であることを意識しています。小中高でも一緒だと思うのですが、国語であれば文字だとか、算数であれば計算だとか、一般的には身の回りにあるような生活に必要となる教育をしています。私自身も小学校の教員を目指していた時期がありまして、その時に違和感を抱いていたことがあるんです。先生になる為の勉強というのは”理科の勉強をして理科を教える”という勉強なんです。それは間違っていると思いました。”理科という教材を使ってその子の人間性をどう育てるのか”ということに重きを置くことで、その子に対する接し方が変わってくると思うんです。そこは我々の学校でも意識しておりまして、もともとは写真が好きだとか映画が好きだとかがきっかけでカメラを触ることになりますが、カメラの使い方を教えていても何もならなくて、”カメラを使う勉強をしながら、その子の人間性を育てていく”ということが大事で、実は題材ってなんでも良いんです。


■新しい取り組み【マルチカリキュラム】について

T:今後の学校としての展望等はどのようにお持ちなのでしょうか。

工藤:たまたま当初は照明がやりたくて照明の勉強をしていたけれど、別に音響にも興味があるなら音響の会社に就職活動をしても構わないと私は思うんです。でも学生達ってなかなかそれが出来なくて、自分が専攻していた分野でしか無理だと自分で決めつけてしまう傾向にある。それがとても勿体ないと思うんです。”専門学校”という体質もあるのですが、”写真の専門学校”に入ったからには親からも写真の道に進むんだと思われ、縛り付けられてしまっているんです。でも、その子にはたくさんの可能性がありますので。また、今回コロナの影響もあって音響会社が配信を行う為に映像の人材を欲しているような状況も多くありましたし、企業側もマルチな人材を求めている傾向にある。そういったこともあり、我々はこの4月から【マルチカリキュラム】という授業を新しく始めることにしたんです。

T:それはどういった授業なのでしょうか?

工藤:いわゆる選択授業です。本校は総合校でいろんな分野がありますが、マルチカリキュラムでは全てのコースの授業から選択できるようになります。自分がやりたいことの他に2~3つ程違う分野のことも学ぶことが出来ますので、自分の道をどんどん広げることが可能になり、就職活動でのバリエーションも増えていくのではないかと考えています。そして、先ほどもお伝えしましたが、違うジャンルの方々の想いや気持ちもわかるようになります。そうやって幅広い人材を輩出出来ればと思っています。

在学中にも様々なジャンルを学ぶことが出来る

T:学生達の選択肢も更に広がることに繋がるので、とても良い取り組みだと思います。

工藤:学生は勿論夢を持って入学してくるんですが、やっぱり勉強することで自分の限界も感じてしまうんですね。でも社会に出たら限界なんて毎日来るわけじゃないですか。無理難題をどうやって解決出来るかってことなんですよ。技術のことだけ教えていくと、技術が出来なかったらもう終わってしまうんですね。そこで自分の自信も失ってしまう。そうではないので、学生が目指してやっていることに対して”向かい合わない”ことに対しては”諦めるな”と助言を行ったりしますが、“出来ないから”ということで駄目だとは言わないようにしています。

T:あくまでも”その子自身”を尊重するということですね。最後に、未来のエンタメを作る若き子達へのメッセージをお願いします。

工藤:我々の業界の仕事って”夢を売る”仕事なので、正解がありません。どんな人にどんな感情を持ってほしいかだと思うんですよ。そして制約もある。制約もある中で何が出来るのかということになる。それを面白いと思って欲しいなと思います。我々の教育もそうなんですが、普通の勉強って楽しくないんですよね。イベントを作っていくということが楽しい。自分がその時間を一緒に共有出来て、相手に何かを感じてもらえたら良いなと。そう思っています。


学校法人 Adachi学園
ビジュアルアーツ専門学校大阪
https://www.visual-arts-osaka.ac.jp/